グレン・グールド                                                                                                                                                                ベートーヴェン交響曲第7番

 心も身体も引き締まる冬の朝。ひたすら前だけ、あるいは手元の携帯電話の画面だけを見ながら黙々と歩く人々。
 
 信号が赤になり立ち止まった横断歩道手前。ふと見上げると荘厳な水墨画のように美しい曇り空が広がっていた。
 その瞬間、なぜかグレン・グールドが奏でるベートーヴェン交響曲第7番の第2楽章アレグレットが体中に流れ始めた。

 アスファルトが足の裏を押し上げて来て、胸は膨らみ、視界が一気に広がった。

 信号が青になると、いつもより大きな一歩で踏み出し、横断歩道のストライプに採譜するかのような足取りで、心も身体も躍りながらスタジオへと向かっていた。