衣装

 衣装をデザインする時、まず花のイメージが浮かびます。ダンサー、パフォーマーが彼・彼女が秘めている可能性で呼び寄せてくれた曲を聴いていると、いつの間にか空間に花が咲いて、その花が風にそよいだり光を浴びたりしている情景が広がり始めるのです。

 音楽の世界観の中で表情を繊細に変えて行く花の動きを心でなぞりながら、その印象をそのまま紙の上に転写していくようなプロセスを経て、新しい衣装の色、形、テクスチャーなどが鮮明になって行きます。

 衣装が持つ一番重要な役割は、パフォーマーが放つエネルギーを視覚化するという事です。本来ならば体そのものの輪郭だけに留まってしまう動きを、肉体の境界線を超越したスケールで観客に感じてもらえるだけではなく、実際に目で捉えてもらえる ー そこに衣装の存在価値があると言えます。

 衣装はパフォーマーにとって第二の肌、そして日常では具象化する事が難しい本人のエッセンスや波動が、新たな層として肉体にレイヤーされたエネルギーでもあるのです。

 今生では決して花になる事が出来ない私たちが、たとえ一夜でも限りなく花に近づく事を叶えてくれる美の衣。それが衣装なのだと思います。

*画像はfeelballetの村上せりさんが踊った「アヴェ・マリア」の衣装の生地選び・合わせの時の一枚です。