サン=サーンスのレクイエム

 雨が静かに流れる淡いグレーの風景をぼんやりと眺めながら、サン=サーンスのレクイエムを聴いていました。
 
 まるで光が灯っては消えて行くようなキリエに始まり、35分程度の時間の中で織り成されていくその仄かで美しい世界。場のエネルギーを浄化すると同時に、聴く者の心も淡々と洗い清めてくれるオルガンと歌声に癒されます。
 特に最終曲のアニュス・デイは、非常に厳かな響きの中に祈りの波動を感じさせる曲で、悲しみと救いが混じり合ったような、なんとも言えない余韻が残ります。

 カミーユ・サン=サーンスはパリの教会でオルガニストとして働いていた時期もあるのですが、自分は無神論者だと語っています。人生における宗教の意義は尊重していたようですが、彼自身はクリスチャンではなかったのです。
 この事実を鑑みても、祈りや救いというものは人間にとって普遍的なテーマで、信仰の有無や対象そのものは、個人が人生で経験し、分かち合う「愛」や「美」や「光」の祝福と必ずしも相関性がある訳ではないという事が分かります。
 
 パリで生まれ、パリで活躍したサン=サーンスの美しくもどこかさらりとしたレクイエム ー 天文学者としての顔も持っていたサン=サーンスは、既成の宗教への信仰とは無縁でも、宇宙という神秘的で広大なスケールでの「偉大な何か」を感じ、その知的で洗練された創作活動のエネルギーへと昇華させていたのかも知れません。