ヴォーカル入りの音楽の場合、「声」というもう一つの楽器が加わるわけですから、まったく同じテンポ、リズム、メロディーの曲でも、当然、インストゥルメンタル・ヴァージョンとは大きく事なる情景が立ち上がります。
そして、そこに「ダンス」という更なるレイヤーを重ねて行く際には、より繊細な曲の解釈が必要となってくるのです。
曲そのものを聴いている時には素通りさせてしまっていた微妙な「間」や緩急、そしてテクスチュアも、実際に声も旋律の重要な一部となっている音楽に寄り添って踊る時、耳だけではなく全身でその世界観を鮮明に感じる事が出来るでしょう。
「カウント」という極めて直線的な時間の括りの中には納まり切れない深さ、奥行き、そして静寂が音楽には存在します。声という楽器は、その臨場感溢れる振動でパフォーマーを包みながら、それまで気が付かなかったさらに踊り上げるべき瞬間を、その美しい響きを通して表現者に伝えてくれるのです。
ダンスの場合、体は「動かすもの」ではなく「奏でるもの」であるように、声もまた「出すもの」ではなく「鳴らすもの」。
体同様、声はそれだけで独自の宇宙とエネルギーを持ったスペシャルな楽器なのだと思います。