Running Up That Hill Kate Bush

 まだドイツが東西に分かれていた時代、ジル・サンダーやコム・デ・ギャルソンの路面店が並ぶクーダム通りから徒歩でチェックポイント・チャーリーを経由して訪れた冷たいアイロン・カーテンの向こう側 。

 フランクフルトから列車に乗り、車中、まるで映画のキャラクターのようにラフで威圧的な東ドイツ側の係員によるパスポートやチケットの確認を受け、窓の外を絵巻物のように流れる「壁、壁、壁」が続く景色を抜けてZoo駅へ朝早くに到着すると、いきなり退廃と緊張が混じり合ったような空気に包まれた事を記憶しています。
 「光と闇の待合室」- 私にとってベルリンは、まさにそういう印象でした。

 ライフルを持って監視しているガード達が屋上に立っているビルに挟まれた道を不思議な気持ちで歩きながら、当時は私自身もまだ若かったため、とりあえず東ドイツの若者たちが集う場へ行ってみようと思って訪れたナイト・クラブ。
 そこで大音量で流れていたのが西側で大ヒット中だったケイト・ブッシュのRunning Up That Hillです。

 めくるめくミラーボールに照らされ、制服姿の若い軍人達が同年代のきれいな女の子達と一緒にこの曲に乗って楽しそうに踊っている様子に、何とも言えない親近感と違和感を覚えた粉雪舞うベルリンの夜でした。